東京オリンピックを前に、東京の猛暑をどう過ごすか、という議論が盛んだ。
そもそもこの時期の東京でオリンピックを行うということが正気の沙汰ではない、という者も多いが、失礼ながら言わせていただければ、工夫と気合が足りない。
なにしろ小池都知事御自ら、「濡れタオルを首に巻いて打ち水をすれば快適に東京オリンピックを観戦できる」とおっしゃっておられるのだ。
そんなものでは猛暑対策は到底足りぬと言うかもしれないが、足りぬ足りぬは工夫が足りぬ。
なにしろこの打ち水、江戸時代から続く由緒正しい日本古来の猛暑対策なのである。
みなで打ち水をする「打ち水大作戦」は2003年から行われている。
一見地道に見えるこの打ち水、主催者の発表では1~2℃ほど気温を下げる効果がある。実際に、打ち水はじわじわと効果があり、打ち水をした数か月後には確実に気温が下がっていくのは周知のとおりである。
この打ち水で、もっとも効果的に気温を下げる方法をご存知だろうか。
ちょっとした工夫でぐんと効果が上がるのはわれわれ打ち水研究家の間では常識だが、まだまだ知られていないのは残念なことだ。
少しの改善の積み重ねが大きく業績を改善させるということは近年、経済学の分野でも注目を集めている。小さな改善を「マージナル・ゲイン」と言い、抜本的革命的なアイディアではなく、マージナル・ゲインの積み重ねこそが重要であるというのはスポーツや経営、安全など多分野に渡り常識となっている。
具体例を挙げればキリがないが、例えば自動車レース、F-1では、覇者であるメルセデスチームをはじめとして、ドライバーの動きだけでなく、ピットのあらゆる細かな動きをセンサリングし、ねじ回しの微妙な角度ですらレースの勝利のために徹底的に改善していく。
あるいは、アフリカの貧困改善という壮大なテーマですら、細かな要素を比較検討し、大規模開発ではなく、子供たちに対する駆虫薬の配布という小さな改善が大きな結果を生み出すことが明らかになっているという(マシュー・サイド著『失敗の科学』 ディスカバー・トゥエンティワン 2016年より)、
東京の猛暑を改善し、気温を下げ、ひいては東京オリンピックを成功に導くためには国民一丸となって取り組まなければならない。
なにも大がかりなことをする必要はない。
江戸時代から続く日本古来の知恵、日本が世界に誇る最高のアイディア、打ち水に、ほんのちょっとした工夫、いわゆるマージナル・ゲインを加えるだけで気温低下の効果はぐんと上がる。
打ち水に関するマージナル・ゲインとは非常にシンプルだ。
道にまく水を、水温0℃の氷水にすればよい。
水温0℃の氷水を大量に東京中に打ち水すれば、明らかに気温は下がるであろう。
おそらく東京ドーム数十杯分の氷水を毎時間、東京中にまけば気温低下は実感できるに違いない。
東京ドーム数十杯分の氷水なんて準備できない?
失礼ながら言わせていただければ、工夫と気合が足りないのではないだろうか。